似せて造られた別作品。
過去のTVシリーズは、登場人物個々の魅力ゆえ
人気作となったが、人間関係は良いとはいえなかった。
この『新劇場版:Q』では、その関係性が
過去のシリーズより改悪されている。
中盤から登場する綾波レイの
「似せて造られた別個体」と匂わせる描写と同様、
本作も「似せて造られた別作品」なのだろう。
扶桑のエース、雁淵孝美の代わりが務まると自分で思っている者は
佐世保航空予備学校の現役学徒において極少数(この時点で絞り込まれている)
➔選抜試験中、唯一のライバルがアクシデントで脱落。
『ブレイブウィッチーズ』では綺麗に描いていたけど
選抜試験は体裁で、ひかりが選出されたのは
実質的に「欠員が生じたことによる繰り上がり」だな。
TV業界における描写の自由度に期待はしていないので
オンエア版の加工については、とやかく言わないでおく。
シナリオ面では、主人公の
レナードに対する行為は妥当な措置だと思うし
フレアは利用価値があったから治癒したまでで
生かしておいたことが優しすぎるということはない。
偽善を徹底的に排した点を高く評価したい。
東京近郊の地下には空洞がある。
洪水対策として建造された施設であり
この施設を介し、東京の降雨は海へと流れ出る。
ゆえに雨が数日降り続いたくらいで冠水はしないと考えられる。
この施設は2002年に稼働開始している。
物語の時代設定がそれより過去である可能性もあるが、
推定する手がかりが必要だ。
帆高はスマートフォンを所持している。
家出した現役高校生の料金を誰が払うのか、という疑問もあるが
時代背景はさほど過去のことではないはずだ。
標高が低いとはいえ、東京は海沿いだから
東京を3メートル冠水させるには
地球全体の海面を10メートル以上も上昇させる必要がある。
そこまで水位を上げるために必要になる水量と、
過去の記録から、東京における1時間の最高雨量を調べ
東京における1時間の最高雨量×24時間×365.25日で
雨が1年降り続いた場合の水量が推計できる。
その数値で、先述の、海面を上昇させるために必要な水量を割ると
雨が1万年降り続いても、東京は水没しないことがわかるはずだ。
制作に取りかかる前に、業界外の友人に相談なりして
検証すべきでは無かったか。
帆高は人に銃口を向けている。一度だけではないので初犯ではないし
銃刀法違反どころか殺人未遂の容疑もかかる。
二度目は警官の眼前で発砲しており、現行犯なので
出頭しても自首は適用されない。
未成年とはいえ、保護観察程度で済ませてよいのか疑問に感じる。
気象、地理、時代背景、治水行政、数学的見地や法といった堅い話を抜きにして
彼らの心情に共感できる面も無くはないが、終盤の行動には同意しかねる。
陽菜が居る場所へ向かう方法はわかっているのだから、往復が可能なら
そこで彼女と結ばれる選択もあったのではないか。連れ帰る必要はあったのか。
「ガールフレンドが欲しい。東京にも住みたい。街を水没させたとしても」
という態度は度が過ぎているのではないか。
「この街で、君と暮らしたい」というと綺麗に聞こえるが
「この汚い街へ、君を巻き添えにしたい」ということだろうか。
そこまで東京に執着する意識はどこからくるのか。
人が住む場所は東京だけではないだろう。
描画が綺麗な点を称賛されているが、ストーリーは問題だらけだ。
「セカイ系」の悪例を観たような印象だった。