西暦2019年7月、現れたのは6体のバーテックス。そして、迎え討つ乃木若葉と高嶋友奈の二人の勇者は、始めから出し惜しみしない全力で挑む。
圧倒的な数的不利は状況は、まるで神の前にちっぽけな人間の「生きたい」という願いなど存在しないも同然ということを示したいのだろうか、勇者たちの「切り札」もなかなか通用しない。
だけど、「勇者なんてただ辛いだけ…。だけど、そんな諦めそうな自分にこそ負けられない!」「人間だから弱さや悪に堕ちやすいけど、でも人間だから戦うんだ!」という友奈のように、人間には人間だからこその単純なロジックではない強さがある。そんな人間の複雑さは、ともすれば郡千景のように破滅を加速させてしまうこともあるけれど、そんな人間だから時に神の摂理さえ超越した力さえも発揮できるのだと思う。
そうして、友奈はバーテックスを打ち倒せた。勝利して、人類を救うことができた。だけど…、それが高嶋友奈の最期だった。普通なら死んでいるはずのボロボロの身体でも彼女が戦うことができたのは、きっと摂理を超越した人間の底力があったから。友奈の前に守るべきもの、倒すべき敵がいたからなんだと思う。だから、それを果たした今、緊張が緩んだように友奈は事切れてしまったように感じた。
それでも、まだ残るバーテックス。残された乃木若葉一人で方を付けなければいけない。とはいえ、もう仲間は一人も生き残っていない絶望の最中。それでも若葉には「みんなの魂を生かすため、みんなのことを覚えているために」という自分だけは最後まで戦って生きなければならないという使命があり、だからこの戦いを初代勇者最後の戦いとして勝利することができたのだと思う。
そんな若葉の最後の勝利も結局、人間の論理のない強さだった。特に初代勇者というのは、それまでの世界では説明のつかないバーテックスの突然の侵攻に際して結成されたということもあって、市民にも彼女たち自身にとっても「神なる戦士」というイメージが強かったように見えていた。そして、それが実際は「ただの人間の少女」である勇者たちにとって非人間的なプレッシャーとなっていて、それをきっかけに散ってしまった郡千景のような勇者もいた。
だけど、そんな重圧という逆境の中でも、なんとか初代勇者の代として世界を守りきれた。とはいえ、それも結局は神の力だけではなく、むしろ「人間の思いの力」によるものという印象が深く残った。神の無力さと不条理さ、そして人間の強さなんだと思う。