ポリゴン・ピクチュアズ手がける3DCGは「シドニア」同様、原作のテイストを上手く映像に落とし込んでおり、緻密でありながらどこか無秩序で、スケールの大きな都市(超構造体)の景観を見事に再現している。
自然と生命の気配がまるでなく、暗いライティングやマットな質感で統一された、いわゆる「ポストアポカリプス」の世界を見ているだけでも面白い。
再現度が高いのは美術だけでなく、弐瓶勉の特徴である硬質なフォントとデザインで構成されたユーザー・インタフェースが映像として動いていると言うだけで興奮が止まらない。づる達が着用する装甲服(のヘルメット)や霧亥の視界に投影されているUIデザインは、昨今のSFアニメの主流となっている「円」をデザインの軸にしたいかにも未来的なものと比べて無骨さがあり、こちらも都市の風景同様、見ているだけで心ときめく。
視覚的な面白さもさることながら、今作を語る上で外せないのが音響だ。菅野祐悟のBGMは電基漁師の一行に迫りくる駆除系の恐ろしさや駆除系との戦いにおける緊迫感を引き立てているし、終盤の霧亥vsサナカンの戦いのクライマックス、重力子放射線射出装置をづるから受け取った霧亥が再起するシーンの盛り上がりにも非常に貢献している。
原作で「ギン」という独特な擬音で表現されていた、本作の代名詞とも言えるアイテム「重力子放射線射出装置」の射出音もインパクトがあり、「射線上をきれいな円形にくり抜き、消し飛ばす」という映像面での凄まじさもあって、非常に印象に残る。
ストーリーは先述の通り原作のあるエピソードを元に、独自の肉付けをして映画オリジナルのエピソードに仕立ててある。
原作はドラマやストーリーよりもビジュアル面に重きをおいていたが、流石にそれでは映画として面白くないためか、電基漁師のづる達を軸にした明確なストーリーが用意されている。
このストーリーもいい塩梅で、意外性はないものの起承転結はしっかりしており、ハッキリとした悪い点やツッコミどころもなく、安心して見ることができた。
クライマックスの盛り上がりも熱く、特に先にも記したボロボロになった霧亥の再起、そしてそこからの逆転劇は文句なしにカッコいい。
トレーラーでも使用された、霧亥がサナカンを睨みつけながら重力子放射線射出装置を構えるシーンは鳥肌モノ。スクリーン越しに霧亥の目に宿る「殺意」がはっきりと感じられた。
色々言いたいこともあるが、ビジュアルと音響の魅力の前には欠点はほとんどどうでも良くなってしまう。例えるなら「100点満点中、ストーリー60点、ビジュアルと音響それぞれ100万点」といった感じの映画。
SF的な世界や美術が好きな人ならかなり楽しめるであろう一作。原作を知らない人にもオススメできる。