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全体
良い
映像
良い
キャラクター
良い
ストーリー
良くない
音楽
普通

『マブラヴオルタネイティヴ』『境界戦機』などロボット・SFモノアニメが乱立した2021年秋アニメの中でも最もマークの薄かったSFアニメ作品。
開始直後は低空飛行でのスタートで一時は「切ろう」と思うほどだったし、見終わってみると決して「出来のいい作品」とは言えなかったのだが、
最終的には2021年秋アニメの中でもなかなか楽しめた作品となった。

個別エピソードの感想でも述べたが、まず目につくのが設定の粗さである。
同期のロボット・SFアニメと比べて非常に設定は浅く、それらが気になって大筋に集中できない。
特に
「シロ組/クロ組とはどんな組織で、誰が運営しているのか?」
「シロ組/クロ組が用いるパワードスーツはいかなる存在なのか?」
という根幹の設定があまりにも浅い。
このため、3話の楓が決意を新たにしたことで彼女のパワードスーツが進化するシーンは、燃えさせたいのだろうが意味不明なシーンにしかなっていない。
(かなり遅れた10話前後で「パワードスーツは装着者の心の具現化」というざっくりした種明かしがようやくなされる)
同じく、主人公らシロ組の敵対者である「オニ」に関しても設定は雑で、作中で「欲望を抱えた人間を依り代に隠世から現実世界に出現する」という解説こそなされるものの、
依り代となった人間を殺そうとしたかと思えば守る素振りを見せたり、完全に取り憑いたはずの依り代から依り代の気合一発で脱出されたりと、
特に序盤においてはやってることがメチャクチャだ。

ストーリーにおいてもこの「雑さ」は散見される。
前述の3話における楓関連のエピソードは設定の掘り下げ不足もさることながら、楓の高跳びに対するトラウマと「スーツが飛べないこと」の結びつけが雑でいまいち感動できないし、ラスボスである明神正臣/シュテンの唐突な登場にはまるで伏線がなく、積み重ねが弱いためボスとしての貫禄がまるで足りない。
よりによってクライマックスの「隠世を完全に封印しオニの根源を断つ」という重大な展開にも「いままで明神の巫女が行ってきた封印では完全に隠世を封印できなかったのに、なぜ今回の封印では隠世を完全に封印できたのか?」という無視できないツッコミどころがあるのもキツかった。

このように、正直欠点は数えるほどあるアニメである。
だが、このアニメ、何故か嫌いになれないのである。

前述の通り設定・脚本ともに雑さは否めないものの、公式が掲げる「ヒロイック・アクション」というテーマに関しては一貫しており、
主人公である翔を中心に展開される、「ヒーロー」をテーマとした物語からは制作側の「ヒーロー」に対する情熱が伝わってくる。
中盤以降、王道的で涼やかな面白さが伝わるシーンも少なくはない。
特に、一話で翔を突き放した涼がオニに取り込まれかけたところで、今度は翔に、かつて自分がかけた「簡単に自分を手放すな」という言葉を返されたことで涼がヒーローとして再起する8話や、
前述の「パワードスーツは装着者の心の具現化」という設定を視聴者に明かしたうえで、楓に憧れ「楓の隣に並び立って支える」と決意した春子が、楓と同じ空を飛ぶ能力に目覚める11話、
そしてシロ組/クロ組全員が心を一つにして、シュテンを圧倒していくラストバトルなど、上手な展開・演出にはしびれた。

その燃え展開を一層引き立たせるのが、ビッグバジェット級のアニメに劣らない3Dを使ったバトルシーン。
涼の刀を使った殺陣や翔の徒手空拳による格闘戦、楓と春子の飛行アクションなどあらゆる面でよくできており、
涼がスーツを進化させ、二刀流・投げナイフ・チャクラムと様々な武器を駆使して真蛇を圧倒した8話を筆頭に、ここだけは文句なしに「素晴らしい」と言い切れる。
それだけに、日常部分の3Dと2Dを統一できていない体制と(最近のアニメでいえば『エクスアーム』などと同様の手法)、2D作画の出来があまりよろしくないことは悔やまれる。

また、シリアスなエピソードの間に挟まれた2度のコメディ回はパロディネタが多めで、いわゆる「ニコニコ動画」的な悪ノリは感じるものの、
コメディはテンポよく、かつ詰め込みすぎないちょうどいい塩梅で、清涼剤として楽しめた。

決して名作ではないし人に勧めようとは思わないが、嫌いにはなれない。むしろ好き。そんな不思議な感情を抱いた一作だった。



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