設定やキャラクター造形など、そこかしこに既視感があり目新しさこそなかったものの、それ故の安定感があって楽しめた一作。
先述のようにチャレンジブルな要素はあまりなく、「栄華を誇った文明が滅び、現代の人々はかつての文明の遺物を利用して暮らす」「過去のテクノロジーを利用したロボット(クレイドルコフィン)開発が盛ん」など、SF者なら親しみのある設定の上に、「ロボット操縦者(ドリフター)に憧れを持つ主人公が超常の力を持ったヒロインと出会い、二人でドリフターの道を歩んでいく」という王道ストーリーと「夢に一生懸命で、恋愛方面には鈍感な主人公・カナタ」「健気な綾波系メインヒロイン・ノワール」「幼い頃からカナタのことを意識している幼馴染ツンデレ系ヒロイン・エリー」「謎多き仮面の男」などのこれまた王道的なキャラクターをトッピングした、令和らしい先進的なヴィジュアルに反した伝統的な作品に仕上がっていた。
その作りには視聴者をアッと言わせるようなサプライズはなかったものの、王道ゆえの期待を裏切らない安定感があり、毎週楽しめた。
素晴らしかったのがキャラクターの魅力。何より画面を彩るヒロインたちは魅力的で、特に心にガン刺さりしたのが先述のエリー。
「幼馴染の主人公のことを意識してるけどなかなか進展できないツンデレヒロイン」というゼロ年代ラノベ的負けヒロイン属性は令和の世では逆に新鮮で、そんなエリーがカナタの一挙一動に心乱され、乙女らしい恥じらいを見せ、戦いでは勇敢にドリフターとしての使命を果たすさまは、このアニメ最大の魅力と言っても良い。
公私におけるパートナーのアンジェもエリーの魅力を引き立てているのがポイントで、エリーとアンジェの悪友的なやり取りにもニヤリとさせられた。
エリーだけでなく、健気でカナタのために不器用ながらも尽くそうとするノワールもメインヒロインにふさわしい可愛さだったし、ヒロインだけでなくドリフターという夢のためにつまずきながらも前進するカナタと、普段はダメ人間だが戦いの場ではカナタをしっかり導いていくトキオなど、魅力あるキャラは少なくない。
ただ、シナリオに関しては「王道ストーリー」と先述したが、目を覆うような大ポカこそないものの、細かいところで瑕疵がありどうしても気になった。
まず、1クールにかけて話の進みが遅く、いまいち今後の展開に気が惹かれない。
物語を引っ張る大筋として「カナタとノワールが力を合わせて一人前のドリフターになる」「カナタの夢である、幻の都市『イストワール』への到達」「ノワールの封じられた過去」「黒仮面が探す『楽園』への鍵」といった要素があるものの、物語はそういった大筋を放って寄り道をすることが多く、上記した大筋があまり物語を牽引できていない。
序盤ではカナタがノワールと契約を結んで、ドリフターとしての道を歩みだした…と思いきや「カナタがドリフターになった記念という名目でトキオに無理やり風俗街に連れてこられてドッタンバッタン大騒ぎ」というギャグ回をしたり、クラウディアとの交流でドリフターとして一皮むけたかと思えば「新ヒロイン・シエルとの出会い」だけで一話使ったり、毒にも薬にもならない水着回をしたり(エリーが可愛く面白くはあったのだが)メディアミックス作品『Echo of Ada』への導線を兼ねたゲスト回で一話使ったりと、終盤、1クール目の大ボスであるシルヴァーストームの出現まで話の進みが本当に遅い。
もちろん、こうした箸休めエピソードでも話を進めようとする努力はあるのだが、大筋に関する情報の開示は断片的で、いまいち興味を引き立てられない。
また、第2シーズンへの伏線として「メイガスは人間とは違う。どんなに親しくしようと、必ずどこかですれ違う」という言説が語られるが、これもしっくりこない。
メイガスは総じて人間らしすぎる上に、登場するドリフターの良き隣人として完璧に振る舞っているゆえ、深刻な顔でそんな言説を語られても「どこが?」としか思えず、これも視聴へのモチベーションを引っ張るパワーになっていなかった。
ロボットアニメの華と言えるアクションだが、『ボトムズ』のATよろしく大地を走り飛び跳ねるクレイドルコフィンの3Dアクションはまあまあかっこいいし、デイジーオーガのソーチェーンなどビジュアルが面白い武器もある。
ただ、基本的にバトルの内容は地味で、一昨年の『シキザクラ』のヒロイックで派手なアクションや、『蒼穹のファフナーBEYOND』『閃光のハサウェイ』などの作り込まれたロボットアクションと比べると華がないのは少し気になった。
ロボットアニメとしてもラブコメアニメとしても「伝統的」なスタイルを「王道」と取るか、「陳腐」と取るかで評価が分かれそうな作品。個人的には「普通に面白い」の域は出なかったものの、楽しい1クールだった。来年のセカンドシーズンにも期待。