妖精の塗り薬によって待ち望んだ邂逅を果たしたジョエルは満たされた気持ちで消え去っていきました。
一方塗り薬の力で愛を知ることができたリャナン・シーでしたが、彼が霞となって消え去ってしまったのもその副作用だったのかもしれません。瞬く間に失われてゆくジョエルを目の当たりにした彼女が果たして幸せだったのか…と考えてしまいます。
そしてジョエルはその最期の時に「きっと君のそばにも行く」と深い愛を贈りましたが、それは寿命の無いリャナン・シーを永劫にバラの庭へと縛り付ける呪縛にもなっています。
一瞬の出会いから互いに深い愛情を持ち静かに過ごしてきた2人が、その別れにおいてはエゴをぶつけ合っているようにも取れるのは寓話的に思えます。
これはチセとエリアスの行く末に待ち受ける運命でもあります。愛とは何か、エゴとは何か、恐らく近い将来に待ち受ける永遠の別れ、残された者のその先…。
チセが単純に悲しみだと思えないのは漠然とそれらを感じていたからではないでしょうか。
冒頭で狐の姿になって駆け出すチセでしたがその毛皮は「人の望みを叶えるもの」。チセが心の底で望んでいるのは自分の心赴くまま走り続けることだったのか、それとも行き着きたい場所があったのか。その辺りを考えると一見順調な2人の関係にも重い影が差してきたように感じます。
今回リャナン・シーは隣人(妖精)と人間の間にも色々な障害はありつつも愛は成立するという事実を提示しました。
しかしそれがチセとエリアスの関係にも適用できるのかと考えると何か足りないピースがあるように思えます。少なくともあれだけの疲弊を伴う魔法薬の作成を許したエリアスと、ジョエルの臨終に錯乱しチセの元に駆けつけたリャナン・シーが同じ位置に立っているようには思えませんでした。
僕はエリアスの足りない部分を補うのはチセという存在、もしくは彼女のもたらす何かというように考えていたのですが、それでは埋めきれない決定的に欠落したものがあるように感じます。
温かい情を育んできた2人がそのまま幸せになるのではないかと思わせる12話から大きな揺らぎを見せる後半を予感させた今回。チセの生命というなおざりになってきた問題がクローズアップされ事態は混沌としてきたようです。
秀逸な構成に圧倒されながらこの先が気になって仕方ありませんでした。