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とても良い

書斎やベッド脇に乱雑に積まれた小説群と書棚にきちんと収められたビジネス書が正己の半生や性格を物語っていて、切ないような哀しいような気分になってしまいます。
決して田舎とは言えないような町で外出時に鍵をかけるほどのものも持たず、空腹を満たすためだけの飯を食い書に埋もれる生活。薄給の内から養育費を払ってもいるでしょう、そういう生活の中で本当に夢も希望も持たず長い時を過ごして来たのではないでしょうか。
散らかった生活感溢れる部屋の押入れから飛び出したあきらの衝撃は正己の人生に突如舞い降りた彼女の姿そのままのようで象徴的だったように思います。
短いスカートで倒れこんだり下着がお茶で透けたりするのを見ても、スケベ心より先に申し訳ないという気持ちが先走るその感じに共感が湧いてしまいました。

一方、自分の靴をそっと正己の靴に寄せたりシャツの匂いを嗅いだりと相変わらずのあきらでしたが、本当に正己のことが好きというよりはまだ恋に恋する乙女といった風に僕には見えました。でもその辺りのはっきりさせない感じが作品の魅力なのだと感じています。
また、自宅に押しかけたとあっていつも以上にときめいている場面が多かったのですけど、傘を持っての迎えに対する正己の「ありがとう」には何の変化もありませんでした。匂いのついた揃いのシャツになったことで家族のような気持ちになったのか、語られていない彼女の父親に向かうような気持ちになったのか僕にはわかりませんでしたが印象的な場面でした。

3話のモノローグに引き続き今回も出てきた『羅生門』。正己もいつか下人のように「生きる」ための決断を下す、そんな展開になっていくのですかね。彷徨うふたりの気持ちがどこに落ち着くのか見届けたいです。



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