松前緒花は、今の自分とは違った素敵な自分に変わりたいと願うけど、普段は現実的な考えをしてばかりの少女。
だけど、突然の母親の夜逃げに巻き込まれて、自分も一緒に!とドラマチックな展開を期待していたら、自分は祖母の旅館・喜翆荘で暮らすことに。だけど、そこには小ぢんまりとした等身大のものだけど、確かに何かが変わりそうな青春のストーリーの幕開けを感じるようだった。
しかし、喜翆荘に着いてみれば、おばあちゃんは自分をここでは女将と呼べと言い、緒花のことも可愛い孫とは程遠い雑用扱い。それは、緒花が「あんなに憧れていたドラマチックは、ちょっと寂しくて、カビっぽい臭いがした」と言うように、ちょっと想像していた以上にリアルで不条理な新しい生活で、若干引き気味にもなるくらいのものだった。
だけど、仄かな期待とはまるで正反対の現実だからこそ、そこに湧き上がる緒花の反骨心と悔しさはドラマチックなくらいに鮮烈なんだと思う。誰かに与えられたドラマチックをぬくぬくしたとこから願うのではなく、女将に引っ叩かれながらも自ら掴むドラマチックこそが本物の自分が変わるための青春なように感じられた。そして、この物語はそれを描くためのものになっていく予感がしていた。