遂に喜翆荘に来訪、いや来襲してきた皐月は、過ぎるくらいに的確な口出しをしてきて、良くもあるけど厄介な客でもあった。
しかし、女将に言わせてみれば、そんな皐月も立派な客であることに変わりはない。皐月がプロな客ならば、女将もプロとして応対する。そのために、女将も皐月のことをよく知る緒花に彼女のことを任せたようだった。
とはいえども、そんな三人は血の繋がった家族であることもまた変わらず。祖母と母と子で語らう中で、緒花は一つの決意を口にした。それは、「孝ちゃんにフラれてしまって……。だけどもう孝ちゃんの日常を振り回したくないから、もう手も出せないし、私の日常は孝ちゃんのいる東京じゃなくて、この喜翆荘」ということ。
そして、緒花は孝ちゃんへの想いを断ち切って、新たなスタートを切ったように思えるものだった。「私の輝く場所は、この仕事場でもあり、家族の居場所でもある喜翆荘」と再確認することで、もう迷わない!と胸に決めたように見えていた。そして、「そんな恋を捨てて、仕事に生きよう」という女の生き様はほろ苦いけれど、それだけ強く見えるものでもあって、なぜだか涙を掻き立てられてしまった。