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とても良い

 良い……気がすると感じて、もう一度みて、とても良いにしました(2回観た感想です)。とても良い仕事をされている回だと思います。意図的意味を明確に伝えながら、絵の自由さ楽しさも残る、といえば良いでしょうか。アニメ観てるなぁ…と満足した気持ちです。
 楽しさに関しては、話そうとする小石川惟子の心の震えを目を震わせて表現していたのが好き、くらいしか言語化できませんが、そういう楽しいを随所に感じて楽しかったです(後半の話の冒頭から回想へと入るところの空の色や様子がうまく言えませんが特に好きです)。
 丁寧さについていえば、たとえば冒頭から映像に揺らぎを入れて回想ではなく記録映像と分かるようにしていたり、OP明けてスピリッツの目の動きから始めていたり(残っている自身の傷への意識の動線)、シャイと二人で話すスピリッツが笑う際に傷を庇いながら笑っていたり、意味の動線がしっかりしていて話を見やすく(それでいて上のような楽しさが含まれて楽しく感じました……楽しさに浸りつつも意味の動線から脱線しない感覚、と言ったらいいかもしれないです。見やすく感じました)、また伏線的に、見返すと地球が丸く写ったり(敵スティグマの目的を思い起こしました)、説明される前からえびおの後ろ姿が見えていて既にえびおがそのキャラに扮してるのが見えたり、知っていて見るのも楽しい部分もあって、どちらからでも(意味の動線の滑らかさからでも伏線的な部分に注目する意味でも)2回目で見入りました。
 さて、話についてになりますが、サブタイトルの「アンチェイン」がどういうことなのか、説明されません。何が〈鎖〉なのか、どのように解き放たれたのか。どこにも示されず、ただ、置かれたふたつの話だけが示されます。ひとつは組織"アマラリルク"を名乗った敵スティグマのリングについてわかったこととそれを受けた小石川惟子やスピリッツの所感。もうひとつは人気のでてきたシャイが創作のヒーローに扮して行ったトークショーとその顛末です。
 このふたつをつなぐ、「アンチェイン」とはなんだろうと、ふらふらと思考を遊ばせてみて、理解できることがその鎖なのではないか、と思いました。それはきっと敵スティグマの目的と同じです。人々が完全に理解し合うことで、手と手を繋ぎあうことで、平和になる。それは耳にするにはとても良い事で、ヒーローの論理で否定することが難しい事でしょう。裏返せば互いに理解する必要がないことになってしまいます。そうなれば理解しないものに対して、人はどこまでも無自覚に冷淡になれるからです。
 前半の話中、シャイとスピリッツ(ペペシャ)の会話は言葉を重ねながらも微妙に、衣擦れをおこすように意図がずれて伝わります。ペペシャは心配をかけまいとして空元気をみせ、シャイは励まそうとして涙がにじみ、その目論みは互いに失敗します。後半のシャイと男の子ー作中劇(魔女っ子系戦隊アニメ)の女の子ヒーローが好きな男の子ーとの会話にいたっては、最終的にその子は、シャイがそのヒーロー:ゼアルその人だ、という結論に至ります。また、会話のきっかけとなった「シャイは本物のヒーローじゃない(と思う)」ことについても二人の中にあるものは違っています。それでも、シャイとスピリッツは一緒に背負おうと手を繋いで、シャイも男の子と同じようにそのアニメ、シビレボを好きになります(もちろんその好きは男の子の好きとはちょっとずつ違っているでしょう)。
 まとめて書こうとすれば、つづめてしまえば、理解できないことが自由だとか、わからなくても繋がれるだとか、なんだか違うことになってしまいます。もしかしたら、そのうちのいくつかは敵スティグマの思想と同じものになるかもしれません。それにたとえ端的にうまく言えたとしても、やっぱり違うものだと思います。鎖がまとわりつくように感じるからです。だからといって反対に端的に言えないとも言いたくないと思います。そう言い切ってしまうこともまた鎖になってしまうようにも思うからです。
 "アマラリルク"もヒーローも、助けを求める心の声に応じて力をふるいます。その受けた傷が、受けようとする傷が、彼らやヒーローたちとその人とをつなぐ縁なのは間違いなくて、ヒーローもその痛みに感じるところがあるから手を伸ばそうと思うはずです。
 (ふと思い出したので話がずれますがここに挟みます)ペペシャ(スピリッツ)は傷を負いました。外形的にもそうですが、内面の傷についてです。その傷に真っ先に反応して手を伸ばしたのがシャイで、そういうところが好きだと思いました。その直後、他のヒーローたちもみんなペペシャのことを心配していたのがわかって、ヒーローってまさにそう(まさにそうでそう描かれたことが好き)と思いました。
 (話戻って)その痛みを感じるところのつながりを見えるようにしてしまえば、あのリングの示したものと似ているかもしれません。同じ時もあるかもしれません。この〈鎖〉はヒーローも囚われうる、囚われているものと思います。その〈鎖〉がいつの間にか、置かれた話をみているうちにほどけていたような印象がうかびました。



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