聖杯をめぐる争いの物語のひとつではあるのだろう。
説教くさい話っぽく始まり、最後まで説教だった。
ここまで教育的である必要はないと思う。
わかり易すぎて、こそばゆい。フジテレビ映画だからかなあ…。
珍しくシリアスに振れてたよね、家族向けっぽい宣伝してたのに。
あの頃はこういうの多かった
宮部みゆきの小説を原作とする映画。112分。
両親が離婚してしまった少年と、自分以外の家族を失ってしまった少年がその運命を変えるべく異世界で全部集めれば自分の願いを一つ叶えることができる玉を求めて奔走する物語。
【良い点】
うーん。意外と挙げるのが難しい。
自分の欲望のために他者を犠牲にしてはいけない、みたいなメッセージなのかな。物語上で他者にあたるのがビジョン=世界であることから、自集団の利益のために他集団を犠牲にするのはどうなの?という提起なのかも。
夏の家族向け映画みたいな風体だが、少年達の置かれている状況がとてもシリアス。妹がその日描いてたであろう絵にべったりと付いた血や、自宅がバリケードテープで覆われ両親と妹が救急車で搬送されるところを目撃した時の芦川の表情など、シリアス描写が秀逸。
作画がとても良い。現実世界での少年の細やかな身振り、ビジョンでの大胆なアクション、どちらも素晴らしかった。ちなみに、本作は作画wikiの作画アニメに名を連ねている。
色彩も特徴的で、特に現実世界の空の色が他のアニメ作品に比べ一段濃く、印象に残る。リアル(私たちの世界)でもこれほど青い空を見たことがあったっけとなるほどだが、不思議とリアルとかけ離れているとは思えない。あった気がする群青の空。
【悪い点】
ビジョンに入ってから芦川との最後の対峙までの仲間との異世界冒険に必要性を感じない。冒険が主人公にも芦川にも何の影響も与えていない。
異世界での冒険が少年の心を成長させたみたいな運びだが、冒険がダイジェストでさらっと流されるから成長に寄与している感がない。
最後に、自分の願いでなく、世界(ビジョン)の破滅を防ぐという選択を主人公がするわけだが、元々心優しい少年が心優しい選択をしただけなので、そこには成長もないしカタルシスもない。
虚無な異世界冒険に尺を食われてしまったせいで、主人公の両親の離婚を止めたいという想いが強く伝わってこない。というか、上では主人公も玉を追い求めてるかのように書いたが、実際は玉を自ら追い求めているような描写はほぼなかった気がする。その場のイベントに沿って流されるように場所を転々としていたような。異世界冒険がコメディ調で描かれるのもあってか、主人公の想いはその程度なのかとなる。
自分の願いのためにビジョンを犠牲にする芦川と、自分の願いを犠牲にビジョンを救う主人公という対比。最終的に芦川は死に、主人公の願いが叶うわけだが、うーん。そもそも、主人公と芦川の境遇に差がありすぎる。流石に、死人を生き返らせたいのと、父親を家に引き留めたいのでは、他者を犠牲にしてでも叶えたいという気持ちの強さに差は生まれるだろう。主人公も芦川と同じ立場になった時に、自分の願いを諦められるのかという話になる気がするし、どうもこの作品が伝えたかったことがわからない。
【総合評価】
最初と最後だけあればいいみたいな映画。中盤の冒険が機能していない。
異世界を犠牲に自分の願いを叶えるか否か、みたいなアニメは他に『星を追う子ども』とか『ディバインゲート』(これは異世界でないかも)があるけど、軒並み酷いのは何でなんだろう。
評価は、「悪い」