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全体
良い
映像
良い
キャラクター
とても良い
ストーリー
良い
音楽
良い

デスティニーの後に続く対立や戦争を描いた作品を見に行ったつもりでいたら見せられたのは恋愛映画だった。そんな心境
いや、詰まらないとかそういう感想なのではなく、世界のどうしようも無さを描く映画を見に行く心構えで居たら、展開されたのはお祭り映画に近かったというか
考えてみれば、コードギアスの映画と同じく久方ぶりにファンの前に姿を表す作品となるのだから、ナチュラルとコーディネーターの対立を新たに描き直すよりもあの頃のファンを楽しませる作品にした方が良いのは当たり前か

SEED作品20年振りの新作映像作品で有りながら時間軸はデスティニーの2年後。視聴者にすれば当時のキャラが少し成長した姿で動き回ってくれるという嬉しい現象だけど、作中人物にすればデスティニープランが提示され世界が揺れ動いてから2年しか経っていないという意味でもあり
多くの者に選択肢は提示されたまま、運命に従う世の中か運命に抗う世の中か。以前のナチュラルとコーディネーターという対立構造よりも大局的な対立軸
その対立軸は思想信条的なものであり、また新しい対立軸だからどちらを選ぶまいと世界は容易に変わり得る

それに向き合う責任を一手に引き受けてしまったのがキラとラクスとなるわけか
これが清濁併せ呑む程の長い人生を経た者であれば異なる受け止め方も有ったかもしれないけど、生憎と二人はまだ年若い。自分がどうにかしなければと頑なになるキラは精神をボロボロにしていくし、政治に長けているわけでもないラクスでは他勢力を納得させる力もない
世界の異変と向き合う中で生じてしまう二人の亀裂を利用する者が現れたとしても、難しい立ち場になってしまった二人が抗えるわけもなく。一方でそんな二人が自分達の関係を語る上では世界がどうのというよりも、愛こそ語るべき言葉として上がってくるというのが本作の構図なのかな
この点を理解するのに結構時間が掛かった為にキラとラクスの関係に間男が入り込む展開にどう反応したものやらと大分困惑させられたよ……

ただ、そのように捉えれば本作で描かれる全てが愛に関連していると言えるわけで
キラにもラクスにも作りたい世界がある。でもこれまで力に頼って対立構造を打破してきた二人はより大きな力を提示されれば世界の作り方が間違っているように思えてしまう。同時に自分達の愛まで間違っているように思えてしまう
そこをオルフェに分け入られてしまった

ラクスにとってキラが自由恋愛によって選んだ相手なら、オルフェは運命によって選ばされた相手
ラクスは世界の選択と共にどちらも受け容れられる立場だが、ラクスを自由恋愛によって選ぶしかないキラには承服し難い話
だからキラはオルフェも世界も取り戻せそうにないと諦めかけた時に激昂し情けない姿を見せたと言えるのかもしれない
キラは今までも運命的な境遇に拠って戦いに身を置くしか無かった。その中でどうにかラクスを選べたのだから、ここに来て運命に拠ってラクスを遠ざけられるとなったら全てを呪うしか無い
でもその感情発露は戦場や世界の責任者ではなく、情けない青年としての己をずっと心に持ち続けていたから発してしまった事かもしれなくて
親友のアスランが乱暴に、そしてより強い力を伴って考え直させて正しい道へと戻してくれた点はキラを普通の青年に立ち返らせつつ、改めて自由恋愛に拠ってラクスを選ぶ原動力になったように思えるよ

戦場の将ではなく青年としての己を取り戻せたならキラや彼を中心とする一派がする事は単純化する
デスティニープランを完遂させようとする思想と対峙するのではなく、愛する女を奪った憎き男を誅滅する為の物語へと集約される
運命がどうのという話ではなく、愛とは何かを語る場へと変貌するわけだ

構図が単純化すれば後はスーパーロボット的に暴れ回って邪魔する男をぶっ飛ばすし、ついでにレクイエムもぶっ壊す
序盤にもガンダムが華麗に飛び回る描写は有ったけど、それにも増して終盤にてフリーダムやジャスティス、デスティニーが暴れ回る様には惚れ惚れとした気持ちよさが有ったね
特に『SEED DESTINY』に幾らか納得できない部分が有った自分としてはシンが明るい表情でデスティニーを駆る様子を見れて割りと満足できてしまったよ

全体としてはズゴックの正体含め「そうはならないだろ」と突っ込みたくなる要素は確かに有るのだけど、ストーリーが進むに連れて難しく考える事が馬鹿馬鹿しくなりつつも、ストレートに視聴者を満足させる展開へと変化していき、最終的に大火力を容赦なく振るうフリーダムという図で終わる本作には強制的な納得感を得てしまった気がしなくもない
TVシリーズでは消化不良気味だった要素を拾い、キラ・アスラン・シンの新たな関係性を描き、そして20年来のファンへ向けた映画としては申し分ない作品となったのではなかろうか



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