政宗くんのはっきりしない気持ちの上で、その上リベンジ計画の一端が愛姫ちゃんの目に入ってしまって………。もう傾きかけてる愛姫ちゃんの気持ちはどうなっちゃうの………
シンプルに言うと、真っ正面から生きようねって物語でした。
素直になれずに本心と真逆なことを口に出していたり、本音を言えずに秘めたままだったりでは、たとえ大切な人と本当は想いが通じ合えているはずでも、通じ合うことができない。ちゃんと本当の想いを言葉という形にすることで、初めてその想いは意味を成す。言霊とは、そういうことを指すような気がするようでもあった。
想いを伝える相手に対してもそうだし、その想いを抱える自分の心に対しても真っ正面から向き合うことで、言葉に宿った力・言霊が現れるということを、この物語は描いていたのだと思う。そして、そうやって想いや思いから目を逸らすことなく生きることこそが、願いや望みの言葉を現実に変えていく力をくれているように見えていた。
橘が求めてくれるから芽生えた、森島はるかの初めての執着心。そんな大好きに、自分すらどうしていいのかわからなくて……。
移り気な森島先輩が悪女なようでいて、実はそんな森島先輩をそこまでぞっこんにさせてしまう橘こそが悪い男のような気もするようだった。
森島先輩はなんというか移り気で無頓着。だから、先輩はやたらとモテるのかもしれない。
だけど、そんな高嶺の花だから、今までそんな先輩に二度告白した人はいなかった。そんなところに、初めて二度目の告白をするくらいに橘が追いかけてくるものだから、移り気で無頓着な森島先輩も柄になく「放っておけない」なんて言ってしまったのだと思う。
「今日のライブが終わっても、このバンド続けていこうね」とそよが燈に言ったように、このバンドが一つになるためのこのライブになるはずだった。迷っていても進み続けようとする彼女たちが、同じ方向を向くための儀式にこのライブがならなけらばいけなかった。
だけど、いざ本番の舞台で、緊張しきりの愛音はともかく、燈も恐れと不安で声が出ない。そこに現れたのが、祥子だった。そして、ギャラリーの中に祥子を見つけた瞬間、燈を縛るものが全て霧散したように、いつもの声を取り戻す。
そうやって成立したパフォーマンスは、このバンドを一つにするものなんかではあるはずがなかった。確かに見かけではこのバンドは結束したように見えていたし、そよを除いて彼女たち自身もそう感じていたことに間違いはなかったように見えていた。だけど、この結束はCRYCHICを壊し、今はここにいない祥子のために燈が歌うことで成り立っている。だから、今歌う燈の心はこのバンドにはないようにしか見えなかった。
演奏し終えた後、立希の目には燈が輝いて見えていたけれど、それはただ燈が祥子という光を受けていたからだったように映っていた。だから、一部を除いて何も知らずにライブを大成功だと感激する彼女たちは、あまりにも悲劇的でしかないように思えて仕方なかった。さらに、その上残酷なのは、この場で全てを引き裂いた燈がそのことに無自覚で、他のみんなと同じように「良いライブができたね」と言いたげな表情を浮かべていたことだった。
だから、唯一全てを理解していたのがそよが「なんで春日影を歌ったの!?」と怒りを爆発させるのも必然だったと思う。何よりもそよはライブ前に、「今日のライブが終わっても、このバンド続けていこうね」と燈と約束していたのに、彼女に素知らぬ顔で裏切られてしまったのだ。
そうして、このバンドが一つになるための初ライブが、むしろ決定的に彼女たちをバラバラにしてしまったという裏腹な結末は、心から非道で最悪だった。
ライブへ向けて、新曲作り、そして練習あるのみ!それを引っ張るのは立希だけど、自由気ままな楽奈やなかなか上達しない愛音に苛立って、上手くみんなをまとめられない。
そんな中で、思い出すのはCRYCHICの頃の祥子。CRYCHIC解散の元凶の彼女がいたからこそ、CRYCHICというバンドが成り立っていた事実と、自分にはそうできない現実がますます立希の苛立ちを募らせていた。
そして、そこに浮かび上がるのは、表面を繕っても内奥はバラバラなままのこのグループの実像だったように思う。その事実を知っていて、でも目を背けたいから、立希も逃げ出したんだと思う。でも、もう決意を決めた愛音と燈は諦めないから、そんな立希を 追いかける。
「ライブはもう明日、逃げらんない」という愛音の言葉は、立希にも進み続ける覚悟を与えるものだったように見えていた。
急遽決まったライブ実戦について揉めるメンバーたち。燈は「バンドが終わっちゃうから、ライブ、したくない…」と言い、立希は「燈の生きてていいんだって教えてくれる歌を聞きたいからライブをしたいんだ」と言う。そよはそよで、「みんなで一緒にいられるなら、ライブをしないで、スタジオバンドでも良いのかも…」と悟りめいていて、愛音は愛音で上達しないギターの披露を先延ばすためにライブはまだと押す。
そんな風にそれぞれの思いがあって、でもそれぞれにとって大事なことだから上手く言葉にできない。エゴをぶつけて、何かが壊れてしまうのが怖いから何も言えないように彼女たちは見えていた。だけど、伝えなきゃ伝わらなくて、分かり合うこともできないと彼女たちは心の何処かではちゃんと分かっているようにも見えていた。
そんな中で、一番あけっぴろげなようでいて、本音を隠していることすら隠していた愛音が本当の自分を打ち明けた。私はずっと逃げ続けてきた弱いやつなんだと燈に告白する愛音の姿は、情けないようでいて、今度は諦めていないということの表れのようにも映っていた。
そして、燈もちゃんとそれを汲み取ってあげられていた。「愛音は迷っていても進んでる」という言葉は、今度は燈から愛音にあげる救いだった。「迷ってもいいし、私も一緒に迷いながら進みたい」という台詞にあるのは、できることとできないことの中で、それでも不器用に諦めない生き方のように思えるものだった。
行方知れずバラバラになったかつてのCRYCHICを再び引き合わせる中心に愛音が舞い降りた。部外者の愛音だからこそ、元CRYCHIC間の微妙に張り詰めた緊張や触れてはいけなさそうな領域もお構いなしにずけずけと突っ込んでいく。でも、それこそが今まで言葉にできなかった燈やそよ、立希の本音を引き出すきっかけになったように見えていた。
そして、そんな風に愛音が現れてかき回したことが、そよがいよいよ言葉にした「またみんな一緒にバンドしよう!」という新しい一歩に繋がった。それはまるで、再びみんなの心が通い合ったようだった。
だけど、立希が燈だけをひたすら追いかけていたことと対象的に、どこか燈が見ているのは愛音のことばかりのような気がしないでもないように見えていた。だから、まだ分からないけれど、それでも取り戻せたものは確かにあったと思えるものだった。
CRYCHICのお話。それはズレていて孤独な燈の居場所になってくれたもので、祥子が言ってくれたように燈の心の叫びを受け止めてくれる場所のように映っていた。だから、初めてのライブも何もかもが、燈にとってのかけがえのない青春になっていた。
だけど、祥子との離別で全てが壊れてしまって。最後に残ったのは、なんだか最初から全部間違っていたような感覚だったようにも見えていた。