台所で皆に料理を振る舞うキヨの姿はお母さんのようで微笑ましい。オフの時も料理のことを考えている彼女はもうすっかりまかないさんなんだなとしみじみ。早朝の目覚ましにタオルを巻くキヨ、深夜に声を抑えるすみれ、お互いの気遣いが優しくて心が温かくなりました。
「やくならマグカップも」2クール姫乃の成長を見守ってのタイトル回収なだけに感慨深く彼女を見守るパパの気持ちに重なるようでした。ヒメナの食器を飾るという柔軟な発想は母の重圧から解き放たれた姫乃の心情により踏み込んだ素晴らしい帰結だと思います。詰まる所るんるーは大事!
そういえば焼き釜の蓋を開けるシーン、実写パートとアニメとでカメラアングルが同じ構図だったので、2次元と3次元が同期するような感覚に見舞われて印象的でした。
おそらく予算が潤沢ではない中でイリナやレフの心情を丁寧に描き、原作の雰囲気を大切に制作されている感じが伝わってきてとても好感が持てる作品でした。個人的にイリナの宇宙飛行達成後はやや興味が削がれたものの、宇宙やJazzで彩ったふたりのロマンスが素敵だったなと。
くくると風花の成長物語をベースとして、海と水棲生物を通して多様性と人としての寛容や優しさを描くテーマは”心の海”という言葉と共に強く印象に残り、またおじいの振る舞いに象徴されるように正しさを強調するような価値観の押し付けがましさがないのも好感が持てました。
一方で脚本の弱さは作品を通して気になったところ。良くも悪くも生真面目で行儀が良過ぎるというのでしょうか、登場人物も物語も深掘りしたり作り手としての個性を出すことなく淡白に終わってしまった感じが否めず、視聴者を作品に引き込む訴求力にやや欠けるかなとの印象も。
そういう意味で、テーマはすごく好きな一方で歯痒さも残り、なんとも惜しい作品という印象です。個人的なハイライトは12話、23話になるでしょうか。
物語としての決着はほぼ前話でついていて、最終話は全編エピローグといった印象。意外な展開や事実に驚かされる事もなくファンサービスも控え目で、終幕へ向けて穏やかに淡々とエピソードを紡いでいく生真面目さがこの作品らしい終わり方だなとしみじみ。
空也と夏凜の絡みはちょっとニヤニヤしました。最後、再会シーンでの紙飛行機は監督の過去作を思い起こさせますね。結構好きな演出です。
楠芽吹や乃木若葉のような新しい人物の視点を入れて物語の大きな流れに奥行きを出しつつ、前作までに残されていた伏線を回収しての大円団。1期2期はどんでん返しの締めでモヤモヤも残りつつだったので今回しっかり完結してのスッキリ・満足感はひとしおでした。
しかしまあ、スッキリする為に7年も待たされた事を思うともう少し構成どうにかならんかったのかと思わんでもないですが。本シリーズこそ一気見というかまとめて観るのに最適な作品なのかも。